切れ刃の真のすくい角で変わる工具損傷|摩耗・チッピング・剛性のバランスを見極めろ

カテゴリーblog
この投稿をシェア twitter facebook line

はじめに

工具設計において「すくい角(rake angle)」は、切れ味や切りくず処理に直結する重要パラメータです。しかし、実際に材料と接触する切れ刃の角度である「真のすくい角(effective rake angle)」が、工具損傷の原因や性能に決定的な影響を与えることは、意外と見落とされがちです。この記事では、真のすくい角の意味とその影響を、損傷例を交えて解説します。

真のすくい角とは?

工具カタログに記載されるすくい角は、一般に設計上の理想角度(機械方向基準)です。これに対し「真のすくい角」とは、実際の切削条件(切込み角・送り角・主軸傾斜など)を考慮した実効的な角度であり、以下のように変化します:

  • ポジティブ方向(+すくい角):切れ味が良く、切削抵抗が小さい
  • ネガティブ方向(−すくい角):剛性が高く、耐欠損性が高いが摩耗が増加

切削条件と真のすくい角の関係

以下の要素によって実効角度が変わるため、条件に応じた角度補正が重要です。

  • 主軸傾斜角(斜め切削・5軸加工)
  • 切込み深さと送り量の比率
  • ワーク材の強度・靭性

加工事例:すくい角と損傷の比較

A:ポジすくい(+20°)でのアルミ加工

  • 結果:低切削抵抗・高表面粗さ性能
  • 損傷:エッジに微小な欠けが発生、寿命短縮

B:ネガすくい(−5°)での鋳鉄加工

  • 結果:切削音安定、チップ分断性良好
  • 損傷:摩耗幅の拡大、刃先温度上昇

対応策と工夫

  • 高靭性材(ステンレスなど)には中間角〜ややネガ推奨
  • 微細加工や軽切削にはややポジティブ角
  • チッピング対策として面取りやマイクロランド加工を採用
  • 多軸機では加工中の角度変化に対応した工具設計を選定

まとめ

カタログ数値だけでなく、「実際の加工姿勢でどう刃が当たるか?」という観点から真のすくい角を見直すことで、工具寿命・加工安定性・仕上がり品質が大きく向上します。真のすくい角は“見えないリスク”を予測する重要なファクター。加工現場での観察と解析を通じて、最適解を導きましょう。

お問合わせはこちら