微細化の限界とコストの現実──ムーアの法則が揺らぐとき

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かつて「半導体の集積率は18〜24ヶ月で倍になる」とされたムーアの法則。この経験則は数十年にわたり、半導体産業の発展と電子機器の高性能化を牽引してきました。しかし近年、その持続可能性に疑問符が付けられるようになっています。理由は単なる技術的難易度だけでなく、「経済合理性」という壁の存在です。

■ 技術革新が限界に近づく

微細化の進展は、10nmを下回る領域に突入し、原子レベルの精度が求められる段階に到達しています。EUVリソグラフィの導入、高誘電率材料、FinFET構造など数々の技術革新により、今なおムーアの法則は「形式上」続いているように見えます。

しかしそれらの技術導入には巨額の投資が必要であり、開発期間も長期化。最先端ノードの開発・製造に携われる企業は限られ、資本力のない企業は追随できない状況が生まれています。

■ 問題は“コスト”の壁

最大の課題は「性能向上に見合うコストかどうか」です。例えば、5nmプロセスの製造には数十億ドル規模の工場投資が必要であり、製品価格に対して回収が見合わなければビジネスとして成立しません。

高性能化を望まないIoT機器や家電分野では、成熟したプロセス(28nmなど)で十分な場合も多く、コストパフォーマンスを優先する動きが強まっています。つまり「ムーアの法則=正義」という時代は終焉を迎えつつあるのです。

■ More than Mooreという選択肢

この状況を受け、「More than Moore」──つまり微細化以外のアプローチによる性能向上が注目されています。3D実装技術、チップレット、異種集積、アーキテクチャ革新など、複数の技術融合による“総合性能”の最大化が主流になりつつあります。

■ 法則を越えて進化するために

ムーアの法則は、もはや経済的・技術的に万能な指標ではなくなりました。今後は「どれだけ微細か」ではなく、「どのように進化するか」が問われる時代へ。技術革新の先にある“価値創出”こそが、次なる競争軸となるでしょう。

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