高温で溶けた鉄はなぜ黄色く光るのか?──金属が発する「熱の色」の正体

工場の鋳造現場や製鋼炉の映像で、ドロドロに溶けた鉄がまばゆい黄色や白色に光り輝いているのを見たことがあるでしょうか。この現象は、単なる「光」ではなく、金属が高温になることで発する熱輻射(ねつふくしゃ)、つまり**「熱の色」**によるものです。今回は、溶けた鉄がなぜ黄色く光るのかを、温度と光の関係から解説します。
金属が光を発する理由──「熱輻射」とは?
固体や液体が高温になると、物体自体が光を放つようになります。これを**熱輻射(thermal radiation)**と呼びます。薪が赤く燃える、電熱線が赤く光る──それと同じ原理です。
温度が上がると、放出される光のエネルギーも高くなり、色も次のように変化していきます。
温度℃ | 発光色の目安 | 状態 |
約500〜600 | 暗赤色 | 加熱中の鉄の初期発光 |
約800〜900 | 赤色 | 鍛造に適した温度帯 |
約1000〜1100 | 橙色(だいだいいろ) | 一般的な鋳造の加熱段階 |
約1200〜1300 | 黄色 | 鉄が溶け始める温度帯 |
約1400以上 | 白色〜眩しい白色 | 鉄が完全に溶融し輝く状態 |
鉄が黄色く輝く温度帯とは?
鉄は約1538℃で完全に**溶融(ようゆう)**します。このときの鉄は液体金属の状態であり、極めて高温です。この温度帯では、目に見える可視光の中でも黄色〜白色の波長を中心に多くのエネルギーが放出されるため、黄色や白色に輝いて見えるのです。
このときの光は炎ではなく、「鉄そのものが出している光」であり、まさに鉄の温度を“視覚化”した現象と言えます。
現場で見る「黄色い鉄の輝き」
実際の製鉄所や鋳造工場では、以下のような場面で黄色い発光が見られます。
- 高炉や電気炉で溶かした鉄が流れ出る瞬間
⇒ 一気に放たれる光と熱、黄色〜白色に輝く鉄流 - 鋳造型に流し込むときの溶湯(ようとう)
⇒ 鋳型へ注がれる鉄が黄色く、時に火花を散らしながら移動する様子 - 連続鋳造や鍛造加熱炉
⇒ 加熱された鉄鋼ビレットやスラブも赤〜黄色に光る
これらは見た目にも非常にインパクトがあるだけでなく、現場作業員が温度の管理を“目で確認”するための手がかりにもなっています。
色から温度を判断する職人の知恵
工業現場では、赤や黄色の光を頼りにして温度の目安を経験的に判断することもあります。もちろん最近では赤外線温度計や熱電対での計測が主流ですが、熟練工は「この色なら鍛造にちょうどよい」「この輝きは溶けすぎている」など、長年の経験と“色”を結びつけて作業しています。
まとめ:鉄が黄色く光るのは、その温度の証
高温で溶けた鉄が黄色や白色に輝くのは、物理現象としての熱輻射によるものです。温度が上がるにつれて、赤→橙→黄→白と光の色が変わっていき、1538℃で完全に溶けた鉄は、眩しいほどの黄色〜白色に光り輝きます。
この輝きは美しいだけでなく、製鋼・鋳造現場では作業の進行や安全のための重要なサインでもあります。