ステンレス鋼の切削データの考え方とは?

加工性に影響する要因と適正条件の設定
ステンレス鋼は「錆びにくい」という特徴の一方で、切削加工が難しい材料としても知られています。被削性の低さは、工具摩耗の促進・加工熱の蓄積・切りくず処理の困難さなどにつながるため、最適な切削条件の設定が重要です。
■ 切削速度(Vc)の考え方
ステンレス鋼は熱伝導率が低く、切削熱が工具先端に集中しやすいため、過度な切削速度はチッピングや摩耗の原因になります。
オーステナイト系では特にこの傾向が強く、低~中速域での切削が推奨されます。被削材の種類や工具材質に応じて、最適な速度設定が求められます。
■ 送り速度(f)の最適化
送り量を過度に小さくすると、摩擦熱の発生が増え、切れ刃に負担が集中します。一方で、過大な送りはびびりや仕上げ面粗さの劣化を招くため、バランスの取れた送り量の設定が必要です。
また、切削幅や切込み深さとの相関も意識して、加工効率と工具寿命を両立することが大切です。
■ 切りくず処理とクーラントの重要性
ステンレス鋼の切りくずは粘着性が高く、巻き付きやすいため、工具トラブルの原因となりがちです。クーラントやMQLの効果的な使用により、切りくず排出と刃先冷却の両立を図ることが重要です。
特に深い溝加工や小径工具使用時には、内部給油式工具の導入も検討する価値があります。
■ 工具材質とコーティングの選定
超硬合金工具が主流ですが、特に**PVDコーティング(TiAlN, AlCrNなど)**が有効です。高温下でも硬度を保ち、溶着を抑制できるため、工具寿命の延長と加工安定性の向上につながります。
■ まとめ
ステンレス鋼の切削では、「ただ条件を落とせばよい」というわけではありません。材質特性を理解したうえで、速度・送り・工具の選定・冷却の最適化を図ることが、安定した加工と高品位な仕上がりの鍵となります。
適切な切削データは、経験とデータの蓄積により、より精密に調整されていきます。