合金設計の組み合わせ事例

【実践例で学ぶ】合金設計の組み合わせ事例とは?目的別・用途別にみる最適な配合とは
金属材料の性能は、「どんな元素を」「どれだけ」加えるか──つまり合金設計によって大きく変わります。
鋼材や特殊合金を設計する際には、目的に応じて合金元素をうまく組み合わせることが重要です。
この記事では、実際に使われている代表的な合金設計の事例を、「目的別・用途別」にわかりやすく紹介します。
そもそも合金設計とは?
合金設計とは、金属に添加する元素の種類・量・処理条件を決めるプロセスです。
目的に応じて下記のような性能を狙います:
- 強度、硬度の向上
- 耐食性、耐熱性の付与
- 加工性、溶接性の確保
- 軽量化、磁性の調整 など
【目的別】合金設計の事例集
1.
高強度鋼の設計(例:SCM435)
添加元素 | 役割 |
C(炭素) | 焼入れ性と硬さの確保 |
Cr(クロム) | 焼入れ性向上、耐摩耗性 |
Mo(モリブデン) | 高温強度の向上、焼戻し脆化防止 |
用途:自動車のシャフト、ボルト、機械部品など
特徴:焼入れ・焼戻しによる高強度と靭性の両立
2.
耐食性合金の設計(例:SUS316)
添加元素 | 役割 |
Cr(クロム) | 錆びにくさの基礎となる |
Ni(ニッケル) | 靭性と耐酸性を付与 |
Mo(モリブデン) | 塩化物に対する耐食性向上 |
用途:化学プラント、海水環境、医療機器など
特徴:塩素イオンに強く、耐孔食性が高い
3.
耐熱合金の設計(例:Inconel 718)
添加元素 | 役割 |
Ni(ニッケル) | 高温安定性、強度維持 |
Cr(クロム) | 耐酸化性向上 |
Nb(ニオブ)+Ti(チタン) | 析出強化相の形成 |
Mo(モリブデン) | 高温クリープ強度の向上 |
用途:ジェットエンジン、タービンブレードなど
特徴:高温下でも強度が落ちにくいニッケル基超合金
4.
工具鋼の設計(例:SKH51/ハイス鋼)
添加元素 | 役割 |
C(炭素) | 基本的な硬さの確保 |
W(タングステン) | 高温硬さの維持、二次硬化 |
Mo(モリブデン) | 靭性の確保 |
V(バナジウム) | 微細組織化、耐摩耗性向上 |
用途:ドリル、エンドミル、金型、刃物など
特徴:高速回転でも焼けにくく、耐摩耗性が高い
5.
バネ鋼の設計(例:SUP10)
添加元素 | 役割 |
C | 弾性・硬さの基盤 |
Si(ケイ素) | 弾性限の向上 |
Mn(マンガン) | 靭性の確保、焼入れ性UP |
Cr | 耐摩耗性・強度UP |
用途:自動車のサスペンション、板バネ、コイルスプリングなど
特徴:疲労に強く、長期間安定して反発力を保つ
まとめ:合金設計は“性能を引き出すレシピ作り”
合金設計は、材料に「どんな性質を持たせたいか」という設計者の意図を具現化する作業です。
単なる元素の追加ではなく、「最適な組み合わせとバランス」が重要。
- 耐熱+高強度 → Ni+Mo+Nb
- 高硬度+靭性 → C+Cr+V
- 耐食性 → Cr+Ni+Mo
それぞれの元素の特性を理解し、目的に応じて設計することで、最適な素材選定・加工・製品性能の最大化が可能になります。